【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

異様な音が聞こえる。


「なっ…」


何を、言おうとしたのだろうか。

それさえ考えることもままならず、三人はその場に立ち尽くした。


バリバリと何かを喰らう音。

絶対に─日常生活では聞かない音。


脳が考えることを拒否している。 

分かってしまえば、気が狂う───。


「行かなきゃ」


一番に駆け出したのは露李だった。

水無月が後を追う。


「待て、露李!!水無月!!」


言っておきながら、何て陳腐な台詞なのだろう。

二人に続き、走り出す。

庭を駆け抜け、核心部へ迫ったとき。


屋敷の中に入ろうとした露李が、見えない何かで弾き飛ばされた。


「露李!?」


すかさず水無月が助け起こし、目を瞑って気を手に集中させた。


「結界だな」


疾風の言葉に、水無月の唇の片端がヒクリとつり上がった。


「出でよ…炎雷鬼」


呟くや否や、右手に銀の光を纏った刀と、鎌─いや、大きさから断頭台を思わせる刃物が現れた。


鋭い目つきで振りかざし、目にも止まらぬ速さで切りかかる。


──ガツン!!


岩を切りつけたかのような音がするも、結界にはヒビすら入っていない。

うっすらと見える紫の結界は濁っていて、何か良くないものを感じる。


「氷紀」


私もやる、と言うが、水無月は頑として首を横に振るばかりだ。


「露李はあんまり力を使わないで。自覚したばっかりだし、体力の消耗が激しかったりするから」


「俺がやる。下がっていろ」


疾風が前に出て、拳に力を集中させた。


「朱雀、貴様の攻撃は打撃だろう。結界破りは、よほどの圧をかけないことには不可能だ」


「お前にとってはただの妖怪風情かもしれないがな、俺はこれでも─」


拳を結界にぶつける。


火花を散らすような音が鳴り、暗い紫の光がエネルギーとなって放出される。

尚も拳を結界につけたまま。

いくらも立たないうちに、バシッと何かを叩きつけるような音とともに、紫が消えた。


「─これでも、結界破りは得意なんだ」


ごくり、と息を飲んだ。

さらりとなびいた不思議な碧。

どこか憂いを含んだ瞳。疾風ではない誰かのようだ。

なぜか胸騒ぎがした。


「修行を積んできたからな、未琴様と」


そう言う疾風の目は、もう元に戻っていた。


「行くぞ」



< 254 / 636 >

この作品をシェア

pagetop