【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
異様な音が聞こえる。
「なっ…」
何を、言おうとしたのだろうか。
それさえ考えることもままならず、三人はその場に立ち尽くした。
バリバリと何かを喰らう音。
絶対に─日常生活では聞かない音。
脳が考えることを拒否している。
分かってしまえば、気が狂う───。
「行かなきゃ」
一番に駆け出したのは露李だった。
水無月が後を追う。
「待て、露李!!水無月!!」
言っておきながら、何て陳腐な台詞なのだろう。
二人に続き、走り出す。
庭を駆け抜け、核心部へ迫ったとき。
屋敷の中に入ろうとした露李が、見えない何かで弾き飛ばされた。
「露李!?」
すかさず水無月が助け起こし、目を瞑って気を手に集中させた。
「結界だな」
疾風の言葉に、水無月の唇の片端がヒクリとつり上がった。
「出でよ…炎雷鬼」
呟くや否や、右手に銀の光を纏った刀と、鎌─いや、大きさから断頭台を思わせる刃物が現れた。
鋭い目つきで振りかざし、目にも止まらぬ速さで切りかかる。
──ガツン!!
岩を切りつけたかのような音がするも、結界にはヒビすら入っていない。
うっすらと見える紫の結界は濁っていて、何か良くないものを感じる。
「氷紀」
私もやる、と言うが、水無月は頑として首を横に振るばかりだ。
「露李はあんまり力を使わないで。自覚したばっかりだし、体力の消耗が激しかったりするから」
「俺がやる。下がっていろ」
疾風が前に出て、拳に力を集中させた。
「朱雀、貴様の攻撃は打撃だろう。結界破りは、よほどの圧をかけないことには不可能だ」
「お前にとってはただの妖怪風情かもしれないがな、俺はこれでも─」
拳を結界にぶつける。
火花を散らすような音が鳴り、暗い紫の光がエネルギーとなって放出される。
尚も拳を結界につけたまま。
いくらも立たないうちに、バシッと何かを叩きつけるような音とともに、紫が消えた。
「─これでも、結界破りは得意なんだ」
ごくり、と息を飲んだ。
さらりとなびいた不思議な碧。
どこか憂いを含んだ瞳。疾風ではない誰かのようだ。
なぜか胸騒ぎがした。
「修行を積んできたからな、未琴様と」
そう言う疾風の目は、もう元に戻っていた。
「行くぞ」