【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
涙
***
「有明様─」
「あ、ババア」
どちらの声か、検討はつく。
「水無月、相も変わらず口が減らぬな」
有明その人が、頭の上にいた。
いつもの赤い着物で、彼岸花を髪にさして。
「ほうほう、風雅の家というのはこうも広かったのだな。家主はどこか知らないが」
有明は怪しげに笑ってから、疾風に目を止めた。
「ほう、またこれは面白い。朱雀家の者か─大分、容貌が違うがな」
髪のことだろう。
疾風は静かに有明を見返す。
「霧氷は朱雀家の異形。そしてこやつも─そういうわけか。なるほどなるほど、面白い」
「何が面白いのか、知りたくもないが。何しに来た」
疾風が口を開く。
「さあな。まあ、これといって興味深いものはないからな、露李姫を奪おうか花霞を奪おうか、考えていたところだ」
まるで今日の夕飯のことでも話すかのように、有明は楽しそうに語る。
「有明様、何を考えてるか分かりませんが。私は行きませんよ。花霞も渡しません」
「またまた露李姫は。露李姫の気持ちではない、私がどうするかということを言っているのだよ。それにしても」
一拍置き、思い出す仕草をして。
「あの獣、すぐに倒れてしまった。やはり妖怪では、低級化するのも果てるのも早いのだな。期待外れだ」
面白くない、と唇を尖らせる有明に、絶句した。
しかし、すぐに我に返る。
「貴女がっ、貴女が秀水さんを…っ」
「そうだ。弱いやつはつまらぬ」
「何、楽しそうにして…」
言いかけ、止まった。
有明の瞳は、小揺るぎもしない。
心底楽しんでいるようだった。
「恨み辛み、ああ、嫉妬心も強くすればすぐに下級に成り下がった。なあ、姫。あやつが君の母上に恋慕の情を抱いていたから、よりやり易かったぞ」
ふわりと風が有明の黒髪を揺らし、月光が彼女の笑みをより際立たせた。
「有明様─」
「あ、ババア」
どちらの声か、検討はつく。
「水無月、相も変わらず口が減らぬな」
有明その人が、頭の上にいた。
いつもの赤い着物で、彼岸花を髪にさして。
「ほうほう、風雅の家というのはこうも広かったのだな。家主はどこか知らないが」
有明は怪しげに笑ってから、疾風に目を止めた。
「ほう、またこれは面白い。朱雀家の者か─大分、容貌が違うがな」
髪のことだろう。
疾風は静かに有明を見返す。
「霧氷は朱雀家の異形。そしてこやつも─そういうわけか。なるほどなるほど、面白い」
「何が面白いのか、知りたくもないが。何しに来た」
疾風が口を開く。
「さあな。まあ、これといって興味深いものはないからな、露李姫を奪おうか花霞を奪おうか、考えていたところだ」
まるで今日の夕飯のことでも話すかのように、有明は楽しそうに語る。
「有明様、何を考えてるか分かりませんが。私は行きませんよ。花霞も渡しません」
「またまた露李姫は。露李姫の気持ちではない、私がどうするかということを言っているのだよ。それにしても」
一拍置き、思い出す仕草をして。
「あの獣、すぐに倒れてしまった。やはり妖怪では、低級化するのも果てるのも早いのだな。期待外れだ」
面白くない、と唇を尖らせる有明に、絶句した。
しかし、すぐに我に返る。
「貴女がっ、貴女が秀水さんを…っ」
「そうだ。弱いやつはつまらぬ」
「何、楽しそうにして…」
言いかけ、止まった。
有明の瞳は、小揺るぎもしない。
心底楽しんでいるようだった。
「恨み辛み、ああ、嫉妬心も強くすればすぐに下級に成り下がった。なあ、姫。あやつが君の母上に恋慕の情を抱いていたから、よりやり易かったぞ」
ふわりと風が有明の黒髪を揺らし、月光が彼女の笑みをより際立たせた。