【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

「すまなかった…露李姫。美喜、お前も」


美喜の頭をポンポンと愛しげに撫でる有明。

優しく撫でられ、美喜が目を丸くする。
 

「い、嫌です有明様…!」


有明の意図を察して声をあげる。

いやいやと首を振り、泣きそうになりながら主を見つめた。  


「お前は私の魂の片割れ。そして私の良心。露李姫が私に“心”をもう一度くれたから、お前は消えかけているんだ──だが、そんなことはさせはしないよ」


安心させるような声色に反し、有明は美喜の望む言葉を言うつもりは毛頭ないようだった。


「露李姫、私を封印してくれ。お前─すまない。貴女なら、出来るはずでしょう」


すぐに答えることは出来なかった。

有明を封印する代わりに、美喜を得る。

美喜が消える代わり、有明の命を得る。


──そんなの選びたくない。


「駄目よ、露李」 


不意に手にひんやりとしたものが触れた。

美喜の手が露李のそれを包んでいた。


「ほら、冷たいでしょ?有明様はまだ生きてるわ。式神の─血の通わない、あたしとは違うのよ」


だからお願い、と握った手に力を込める。

だが露李は頷こうとしない。


「酷なことを言っていると分かっている。許されるとも思っていない…だが、これが鬼の贖罪なのだ」


ぴくりと肩が揺れる。


「花姫─もとい風花姫の持つ武器は、封印具となる。私たち他の鬼は持たない力だ。風花姫の本来の役割は、花霞を封印することではない。風花姫はいわば鬼を断罪するもの」


「な、何ですかそれ、風花姫は巫女なんじゃ」


「巫女だよ。だが、それだけではない。長寿に加え治癒力の高い鬼だ、普通の方法で殺すことはできぬ。故に封印が必要なのだ」


だから、封印を。

殺せ、と言うのか。

露李の表情が強ばった。

私は、殺したくない──。

誰かを失う苦しみを、他の誰にも味わわせたくないのに。


「それ相応のことをした。私にはこのまま生きている資格が無い。私が消えれば、魂はまるごと美喜に移行する。美喜により確実な“生”を与えることが出来る」


「露李っ、嫌よ、あたしはっ!!」


美喜が叫ぶ。

露李を除いて誰一人として決断を下すことができない。

露李だけが有明の生死を司っていた。

< 296 / 636 >

この作品をシェア

pagetop