【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
嫌だ、嫌だ。
誰かを平気で手にかけられるほど、自分は傲慢でらない。
声も出せず、真剣な有明の目を見つめる。
刻々と時間が迫ってくる。
このままでは美喜が消えてしまう。
しかし、美喜を救えるただ一つの方法は有明を殺すことのみ。
封印と言えど、雹雷鬼で刺さねばならないのだ。
致命傷を与えなければならない。
「おい、やめてくんねーか」
不意に肩が抱かれた。
守護者と水無月が露李のすぐ横に来ていた。
「…すまない。私の我儘だと重々承知しているつもりだ。だが…美喜を、解放してやりたいのだ。魂を分けるとき、私は陰と陽に力を分けた。美喜が陽だ。私が陰であるために、星月夜たちに分け与えた力も陰になってしまった」
少なくとも以前は意図的にそうしていた、と有明は告白する。
「星月夜を見ただろう。私はあれに最も力を与えた。星月夜は自分では知らずに、陰の力に飲み込まれそうになっていた。露李姫に触れたことで我を取り戻したようだったが」
「このままでは、彼もどうなるか分からないってことですか?」
「…ああ。睡蓮もだ。奴の目は本当はあんな濁った赤紫ではない。私は随分侵食してしまったようだ」
ぐっと唇を噛み締める。
有明を切り捨てれば、より多くの人々が助かる。
だが、多くのために一人を切り捨てるのは最善と言えるのだろうか?
─私はどうしたら良いの。
美喜と一緒にいたい。
有明様を殺したくない。
でもそうしなければ、また悲劇が生まれるかもしれない。
また殺しを繰り返すことになる。
殺したくない。
でもそれは───
「露李、嫌なら俺がやるよ。俺は君の片割れ、不足はないだろうし。まあ、殺すだけになるけど」
───甘えだ。
「こうは思ってくれないだろうか、露李姫。悪しき私の魂を浄化する、と。実際こうしなければ私の飛ばした邪気や呪詛は洗われないのだから。─それに」
ふ、と有明が口元に微笑みを浮かべる。
見たこともない優しい笑みだ。
「あんなことが無ければ、というのは言い訳になるかもしれないが。実を言うと私は、花姫のことをよく知らぬ…友達だったはずなのにな」
「…有明様、それは真ですか」
「ああそうだよ、秋雨。でも、こんな有り様では露李姫、貴女に顔向けもできない。だから一刻も早く浄化され貴女と友達になりたい。私の行いに対しての許しを請うことはしない。せめて美喜として、あくまで美喜として─私と、友達になってはくれないだろうか?」
露李が顔を上げる。その瞳を見て、安心したように微笑む有明。
「…何、言ってるんですか。勿論です」
強い決意がそこにあった。
「それから、星月夜、睡蓮、宵菊。今まですまなかった」
「嫌っ、露李!!」
「皆、大好きだ…水無月、お前も。ありがとう」
「ババアに礼を言われる覚えはないよ」
「秋雨…私に長い間付き合ってくれてありがとう」
「扇莉…何を」
「露李姫」
名前を呼ばれた。それが合図だ。
「有明様、その時まで──」
一歩踏み込む。
目を合わせたまま、有明は笑みを崩さない。
「──またいつか」
手に雹雷鬼を宿し、それを振り上げる。
ザシュ、っと鈍い音。
「『施錠』」
まるでその決まり文句を知っているかのように、言葉が口をついて出る。
有明の身体が淡く銀色に発光し、雹雷鬼に吸い込まれるように消えた。
終わったのだと、悟った。