【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

「ゆーいーー!!!」


「静ーー!!」


「文月ぃい!!出てこい馬鹿息子が!」


それぞれ当主が叫びながら走ってくる。


─やっぱり、いくら守護家なんて特殊な家庭でも大切なんだな。


羨ましさ半分、安堵半分。


「ちょ、母さん転ぶから!砂利だからなー!?」


「母様っ、着物の裾気をつけてください!」


「父上。ここです」


三人も少し呆れたように、でも嬉しそうに駆け寄る。

しかし、露李はもうそちらを見ていなかった。


「──理津」 


「行きなよ、露李」


水無月の声を聞くか聞かないかで走りだし、その場を静かに去る理津の背中を追う。

歩幅が違い過ぎてなかなか追いつけない。

そのまま辛うじて無事な大きな松の木の幹の陰で理津が止まる。

追いついても何も言わず、横顔は険しいままだ。


「理津っ」


少し声を大きくすると、理津はびくっと露李の顔を見る。


「いたのかお前!?」


「いたのよ」


すまして答える露李に、無理に笑おうとした。

しかしそれは笑顔の体を成していない。

その歪な笑顔を真っ直ぐ見つめる。


「何だよ」


「別に笑わなくて良い」


予想外の言葉に詰まり、固まる。

真っ直ぐな、視線。

何故だか目頭が熱くなって、理津は慌てて目を背けた。

 
「…お前も、別に罪悪感とか感じる必要ねぇからな」


これだけは言っておきたかった。

露李のせいではないという事だけは。

だが、心のどこかに穴が開いた気がするのも確かだった。


「あいつが一番、俺に良くしてくれたからな。まだ─その辺にいるんじゃねぇかって変な気がしてんだ」


「…うん」


「でも、お前からも疾風からも水無月からも聞いたけど。やっぱりそうなんだよな」


分かってんだ、と理津は頷く。

頬に透明な雫が流れたことには気がつかないふりをした。


「あんなクソみたいなインチキ紳士でも、家に帰ったらもう俺の相手してくれる奴いねぇんだよな」


変な感じだ。

そう呟く。

< 316 / 636 >

この作品をシェア

pagetop