【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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 そろそろ皆さんが心配されるでしょうから、という海松の言葉に従い、露李は身支度を整えた。

少しシワになってしまった服を手で撫でつけ、乱れた髪を櫛でとかす。

腰まである長い髪は、全て綺麗にするには時間がかかる。

精一杯速く手を動かしていると、ふわりと指の上に温もりが乗った。

驚いて振り返ると、海松が優しく微笑んでいた。


「私が」


「え?あ…」


申し訳ないしいいよ、と言おうとするが、もう少し甘えてみたくなった。

照れたように笑って、櫛から手を放す。

するすると髪をとかす手つきは露李よりも上手で、ほうっと感心してしまう。


──綺麗だなぁ。


鏡越しに海松を眺める。

露李ほどの長さではないが、胸元まで伸ばした綺麗な黒髪は艶々としている。

真っ白い肌に真っ赤な唇、白雪姫を思わせる容貌。

初対面の人間でも分かるその優しい雰囲気は、静かな表情を浮かべる彼女にぴったりだ。

何よりも美少女なのが露李としては目の保養なのだが。

惚れ惚れと淑やかな美しさに見とれていると、ふと鏡の中の海松と目が合う。

ふわりと自分に向けられた笑顔に胸がいっぱいになる。

また涙が出そうになった。

笑い返しながらも、自分の顔が笑い泣きに近いものになっていることに情けなく思う。


私が、皆の命を守ることが出来なければ。

この笑顔も奪うことになるんだ。


知らないふりをしてくれている海松に感謝しながら、考えた。

現に一度奪っている。

その奪ったとき─命の消えていく感触が消えない、消してはいけない。

守るということは敵対する相手を本気で倒すことでもあるのだ。

それくらいの覚悟を持っていなければ、何も守ることはできない。

きっと守護者たちはそれを分かっていた。

分かっていたからこそ、最初、疾風は何も分かっていないと露李を突き放した。

今それが分かって、顔を覆いたくなった。


でも、これくらいは許されるだろうか。

弱音を吐くことを許されるだろうか。


もう、これで終わりにするから。


──“私達”に課されたものは、重すぎる。


誰にも聞こえない心の声が、泣いていた。


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