【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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 十分後、一行は境内にいた。

いつものように、祀られた神に祈る。

「火影姫尊」、「薄桜尊」、「深紅尊」、「焔尊」。


それぞれの社は無く、一つのところに全ての神が祀られている。

これも神影神社の異質な点で、神影に伝わる神話の書で黒塗りが施されていない箇所から類推すると、それも四神たっての希望らしい。

神を疑うわけではないが、神影神社の神々は知名度が大幅に低く、歴史も深いのに対して内容はあまり明かされていない。

それぞれの家の影響が強いからか、外へ漏れることがあまり無いからだろう。


露李は感謝を述べてから、かねてからの願いを心に浮かべた。


皆が、救われますように。

私を守るためなんて理由で、命を落としませんように。

私が絶対に皆を守ります。どうか力をお貸しください。


閉じた瞼に力が入る。

目を閉じていると、視覚からの情報が無くなるため気を感じ取りやすくなる。

花霞を縛ってある隣の蔵から、強い邪気が溢れ出ている。

どす黒い気分の悪い色だ。


何人もの人々の魂を取り込み、それら全て悪鬼と化しているのだから相当だ。

普通なら気が狂ってしまうが、ここにいる者全て普通ではない。

しかし気を抜けば心を蝕まれ取り込まれてしまう。

邪気に対抗するようにして祈りを捧げ、目を開けた。

他の面々も目を開け、静かに神々の御所を眺めていた。


「露李様。もうお済みですか?」


「うん。そろそろ戻ろうか」


隣に座っている海松に笑いかけて立ち上がる。

守護者と水無月もそれに従い、そこを出る。


まだ少しほの暗かった空は晴れ、からりとした空気が辺りを覆っていた。

不穏なものなど何一つ無いような青が広がっている。


「早く戻らないと宵菊さんたちが帰ってくるかもしれないね」


「待たせておけよあんなやつら」


ふてくされたような結の言葉に、露李が困った顔をする。

本当につい最近まで敵同士だった彼等を、美喜と同じ離れに住まわせているのだ。

その提案をしたのも露李だ。

初めは守護者たち全員と海松が認めなかったが、結局は折れることになった。

ただし守護者や水無月、そして海松と露李とは別館という条件付きだ。

大きな譲歩だ。

露李には宵菊たちが有明に心酔する理由が分かる気がした。

悪人という訳ではない、人をそこまで心酔させるにはきっと想像もできないような理由がある。

殺しに狂ってしまった有明を救いたいと願い、裏切る形になってしまった彼等の心を救済することに意味がある。

そう思ったのだ。


「ごめんなさい」


思わず謝ると、結は拗ねたようにそっぽを向く。

周りも同意するように黙って歩いている。

水無月も横目で見るだけだ。


「別にお前が危険じゃないなら良いんだよ。ただな!」


結が突然振り向いた。


「信用するだけの材料が無いやつをむやみに入れるなって話だ!不安で夜も眠れねーよ!」


「そうそう結、普段早寝なのに最近全然なんだよ。前は身長が~ってうるさかったのに」


「あっちょ、文月お前!」


文月の横槍に大きな目を見開いて結は顔を赤くする。


「まあでも。露李ちゃんの判断だから従うけどね、俺は全部納得したわけじゃないから」


「分かってます。ありがとうございます、文月先輩」


困った顔のまま露李が文月に笑い返すと、頭にずしっと重みが乗った。

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