【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

 「水無月。お前らの力は、どうやって花霞の封印に使うんだ?」


家に向かって歩きながら、結は後ろの水無月に尋ねた。

露李はさらにその後ろで同級生組とじゃれている。

文月と静、海松が黙って視線を向けた。

それを受けて息を吐き出す水無月。


「さあ。分からん」

 
四人が怪訝そうにしたのでまた口を開く。


「この俺が知っているのは、我ら鬼についてだけだ。鬼は強大な力を持つが、この神社のように明確なことを記す書物は存在しない」


「存在しない…?一つも遺されていないってことは」


文月の言葉に頷く。


「ああ、有り得ないだろうな。我ら鬼は知恵に優れた生き物だ。意図的に消そうとした線が濃い」


「それは…」


「鬼は寿命が長い。あの若作りババアも、花姫と同期だ。古い鬼に聞いてみるのが一番だと言えるだろうな」


水無月は少し顔をしかめて、離れの方向を見つめた。

そこにはかつての仲間、秋雨もいる。

だが一つ、気がかりなことがあった。


「露李の前では聞くな。責任を感じる上に、あの子にはまだ俺も知らない秘密がある。鬼であることは、巫女の里が長い露李にとって苦痛でしかないのだからな」


「…分かってる」


結は少し間を置いてそう答える。


──巫女が鬼なんて聞いたことねーけど。
 

何せこの神社に使える守護家も妖怪だ。

動物妖ではないが、どういう妖怪かも自分達は知らない。

持っている力だけを使うだけだ。

周りと違うことにも昔から慣れていたが、露李は違うのだろう。

巫女は神職だ。

神影家は守護者の正体も何もかも知らず、ただ神に仕えることだけを教えていたようだ。

昔話でも鬼は悪者であることも多いし、巫女の里ではどんなことが常識であるかも分からない。


そこまで考え、ズキリと結の胸が痛んだ。


──俺達のために、自分が恐れている力を使ったのか。

どんだけ強いんだよ、お前は。


文月も同じことを思っているのか、視線を交わす。


「強い子なんだよ、あの子は」


遠くを見つめる水無月は、独り言のように呟いた。

初恋の彼女をただ想う、一人の男として。


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