【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
「風雅。貴様、露李の覚悟を知っているのか」
覚悟。
幼い頃から耳にして来た言葉だ。
隣で海松がぴくりと動く気配がした。
「あいつの、覚悟」
結の視線に、水無月は赤い目で冷ややかに睨む。
海松が露李の傷の手当てをしているときのことだ。
水無月が外の壁にもたれて見張りをしていると、襖越しに露李の声が聞こえた。
真の名を呼ぶのは露李だけだ。
他の者に名前を呼ばれると虫酸が走る。
昔の話だが、水無月は不用意に名前を呼んできた低級妖怪を殺してしまったことがあるのだ。
炎雷鬼を出したわけではなく、己の気で殺してしまったのだが。
──氷紀。もし、私の自我が無くなったら。
──何の話?
──もし鬼の力が暴発したら、私を斬って。
「自分の力が暴発したら、殺してくれと言っていた」
何だそれは。
結は拳を固く握りしめた。
覚悟の強さは分かる。
自分達のことを思ってくれていることも、痛いくらい分かる。
けれど、それではあまりに信用がなさすぎる。
「暴発なんかさせねー。そんな簡単に死なせると思ったのか」
「…これは、あの子の覚悟だ」
静かに告げた水無月に驚く。
何となく怒るような気がしていたのだが。
目を閉じると、少し水無月の妖気が揺らいでいる。
「お前たちは、それほど強く思われているということだ。俺はそれが羨ましくて仕方がない」
「水無月?」
「けど、この俺であっても叶えてやれる願いとそうでないものがある。露李には申し訳ないがお前達のためにあの子を殺すのは腹立たしい。よって」
早口で述べてからギロリ、と睨む。
殊更に強い気が結と文月、静にまとわりついた。
「お前たちは露李のために、無い頭を使って策を練るが良い」
少し痺れる身体で、三人はひっそりと笑った。
それを確認してから水無月は今度は海松を見据えた。
「貴様は、露李の心の支えになれ。必ずだ」
俺も出来るだけのことをする、と言い残し後ろを向いた。
「つっゆりー!」
「はいー、なぁに」
他には向けたこともない柔らかな笑顔を浮かべていた。