【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
***

 美喜の部屋に張り巡らされた結界を一つずつ解いては直していく。

そんな面倒な作業を嫌な顔一つせずにする露李を手伝いながら、水無月は彼女の表情を観察していた。

強そうに見えて儚い彼女は、きっと今も辛い思いをしているのだろう。


強い者ほど、耐えなければならないものは多い。


「…美喜」


枕元に座り、名前を呼ぶ。


──行って!


命懸けで逃がしてくれた美喜。

どんな気持ちだったろうか。


「露李」


強く美喜を思う露李から、キラキラと光が降り注いでいた。

水無月の声に呼ばれ、はっと目を開ける。

金銀の気に包まれた自分と美喜を見て少し驚く。


「悲しいなら、悲しいって言えば良いのに」


そう言って頭を撫でられる。

露李に感情を押し殺そうとする癖があることを、水無月は知っていた。


彼女が目を見開き、柔らかく笑った。

水無月の手をとり、頬にあてる。


「ありがとう、兄様。でも、大丈夫」


「大丈夫だっていう人ほど、大丈夫じゃないんだよ」


困ったように笑い返す水無月。


何と言って良いか分からなくなり、露李は視線をさ迷わせてから美喜に目を戻す。

そして。


「に、兄様!美喜が!」


美喜の瞼が震えていた。

眉間にシワを寄せ、押し上げるようにして彼女の目が開く。


「美喜!!」


「露李…?」


聞き慣れた声。

きつい目元。

美喜だった。

身体を起こすのを手伝い、改めてそれを確認する。


露李が思わず抱き締めると、美喜は驚いた顔をしてからふっと笑う。


「…身体が、温かい」


耳元で呟かれた言葉に、さっと腕を外す。

が、俯く露李の手に美喜の手が乗った。


「どうせ気にしてるわよね。謝ったりしないでよ、露李」


「え?」


「恨んだりしないわ。…ありがとう」


涙がこぼれるのは、どちらの方が早かったか。


水無月は静かに彼女たちを見守っていた。


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