【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく


あらっ、と朱音が声をあげた。


「秋篠家の子ではありませんか。まあ、思っていたよりも私の好みですわ」


「お初にお目にかかります、秋篠 氷紀と申します」


好み云々には触れず、水無月がさっと膝まずく。


「うふふ、嬉しいですわ。久しぶりに家の者にお会いできて。こうして誰かとお話するのも久しぶりですのに」


最後の言葉を聞いた瞬間、水無月の顔がわずかに強張った。


「…氷紀?」


頭を垂れたまま、水無月は露李に向かって悲しそうに微笑んだ。


「そうですわね。貴方もさすがと言えますわね、こんなに早く起きてくるなんて。ふふ、朱音とても面白いですわ」


少女のように笑う朱音にぞくりと背中に悪寒が走った。

その無邪気さはどこか──怖い。


「やはり私が色々と代償を払った価値がありますわ」


またしても笑い、おもむろに朱音が露李に手をかざした。


──瞬間。



「ああああああ────!!!」


喉から迸るように悲鳴が流れ出した。

自分では止めることができない、身体もろとも押し潰されるような、全身を切り裂かれるような痛みが露李を襲った。

その神聖さから、油断していた。

忘れていた。 

自分が生きている限り、危険がつきまとう運命からは逃れられないということを。


「何をなさるのですかっ……!!」


露李、露李、と何度も繰り返し名前が呼ばれるのが聞こえた。

しかし水無月が刀を抜くことは許されない。

ぶわっと朱音から噴き出した気が、決してそれを許さない。

露李は自分の全身から紋が浮き出ているのを霞む視界の中にとらえた。

夏焼家のくちなしの紋、神影家の八重桜の紋、そして、いつか見た未琴の青い鎖の紋。

そうしてもう一つ浮き上がるのは、竜胆の花。


「あら、やっぱり。秋篠家の紋ですわ。氷紀さんと言ったかしら貴方、この子に何かしましたわね?もうっ、困りますわ。これじゃ魂も何かあるのかしら」


今までとは比較にならない息苦しさが露李をまた襲う。


何かが引っ張られるような、意識が遠退いて──。





< 400 / 636 >

この作品をシェア

pagetop