【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
「お前らは露李のそばにいろ!」
結の攻撃をさっと懐から取り出した鉄扇で受け止める。
近距離で睨みつける結の気迫ににっこりと微笑みながら、口を開いた。
「全身強化」
術のようだが、それはさながら静のものにそっくりだった。
すさまじい強さの気が噴き出し、結の身体が吹き飛ばされる。
露李のそばに綺麗に着地を決めた結だったが、その力の差は歴然だった。
「結先輩、皆、待って!その方は……!」
露李の焦った声に応えるように、朱音は扇を開いて艶やかに笑った。
「初めまして。秋篠家頭領、朱音にございますわ。そう、いわゆる──神、と言ったところですわね」
神──つい最近聞いた言葉に、全員が固まった。
「露李姫と氷紀さんは気がついていらしたようですわね?それにしても露李姫、貴女は本当に例のないことをなさいますわ」
「私が…?」
「そこの風雅家の方から、露李姫の波動を感じましたわ。もう力の絆を結んでいるなんて驚きました、それにこれ」
朱音は足下から“それら”を拾い上げた。
鏡、鈴などの露李の持ち物から、ぬいぐるみの類。
神事で使った道具から、外から入ってきたのであろう枝や葉が散らばっているのだ。
「ずいぶん気に入られているようですわね、付喪神たちに。森の木々にまで好かれているとは、何をなさったのかしら」
ふふ、と手の上で枝を転がしながら露李に問う。
「花姫以上の才があるとは本当に予想外でしたわ。まあ、それももう関係ないのですけれど。──それで、本題ですが」
赤い目が真剣な光を帯びた。
「私、もう神の座を降りたいのです。貴女に、神の位を託しに来ました」
ついにそのときが来たのだと、半ば諦めのような気持ちが露李の胸に湧き上がった。
「良いですの?」
その覚悟の色を汲んだのか静かに問われる。
「露李っ……」
水無月が耳元で苦しそうに呼んだが、露李は彼の腕から出て、座り直した。
「────はい」
神になって、皆を守る。
そう決めた。
朱音は満足そうに笑った───ように見えた。
すぐにつまらなさそうに唇を尖らせる。
「嫌いですわ」
「へっ?」
「気に入りませんわ。ええ、全く。気持ちが悪いですわ」
「あの、何が」
「何もお分かりになってないのですわね。神になるということは、生半可なことではありませんのに。私、説明も何もしていませんでしょう?時雨が全てを話しまして?」
怒ったように矢継ぎ早に言う朱音に意表を突かれた。
「し、時雨?どなたですか?」
「……まあ、まだあの名前を使っていましたのね。彼の通り名、“秋雨”ですわ。冬高家の」
何もかも訳がわからなくて、黙りこむ。