【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
式に案内された海松の部屋には、きちんと布団がひかれたその上に彼女が眠っていた。
寝間着を着るわけでもなく布団に入っているというところだけがその場の異様さを映し出している。
「おねえちゃん、どうして寝てるんですか?わたしのせい?」
「……そうか、君は」
水無月が改めて抱き上げた露李の顔を見つめた。
「わた、わたし…『里の災厄』だから」
え、と守護者たちが振り返る。
「何言ってんだ。そんなわけないだろーが」
結が間髪入れずに否定すると、露李はふるふると首を横に振る。
「ぜんぶ、私のせいなの……」
出会った頃のような目を。
まるでビー玉のように冷たく、人間味がない。
その人形のような目には何も映していない。
二度とあの目を見たくはなかった──。
いや、まだこの年齢の露李は自分達と出会ってすらいない。
結も思わず黙りこむ。
幼い頃、風花姫の存在は知っていたが深く考えることはなかった。
ただいずれ訪れる死を受け入れるのに精一杯で、そしてもっと言えば、風花姫という自分達の運命の持ち主を恨みさえした。
でも。
その“風花姫”は、一人でこんなに抱えていた。
一人ぼっちで、ずっと、こんな小さな身体で、こんなにも。
「思い上がりだねえ」
水無月の冷たい声に露李がぴくりと顔を上げる。
「に、兄様……」
「災厄なんて簡単に起こせるものじゃないっていうのに。まあ大方、露李。君の周りの雑魚どもが吹き込んだんだろうけど、あまりにも馬鹿馬鹿しい」
「私じゃないの…?」
「もちろん」
こんな言い方でないと、納得できない。
その現実を目の当たりにし、彼女がどれだけ傷つけられてきたのかを突きつけられた。
また露李はふわりと笑みを浮かべる。
が、水無月は守護者たちに渋い表情を向けた。
「今ここにいるこの子は、こうやって笑えるが。本来の露李はそうじゃない」
「──そうか。これは」
結に頷いてみせる。
「朱音さまが時間を巻き戻したからこそ、だ。これから、露李はお前たちに会うまでもっと長い月日を過ごすことになる。それに」
「水無月は、一度いなくなっていたね?」
「ああ。それも、クソババアの手によってな」
苦虫を噛み潰したようにそう言い、水無月は空を睨んだ。
「油断するな。この子のトラウマはこんなものじゃない」
守護者たちが頷く。
「よっしゃ、じゃあお前ら。早く海松を目覚めさせるぞ」
結のかけ声で、皆が手を海松にかざした。