【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
「時雨っ……!」
「秋雨さん……」
肩で息をしながら、秋雨が強い力で朱音の動きを止めていた。
「まさかとは思ったが……やはりお前だったか」
秋雨が悲しそうに朱音を見つめる。
「露李っ!!」
突如として現れたのは、美喜だった。
「美喜……どうして」
「秋雨が悪い予感がするって言うから……!」
久しぶりに出会った女友達に、露李の顔がほころぶ。
「やはり、今の神はお前か……その姿は干渉したからか?」
無言は肯定の印だ。
「露李姫の生い立ちに謎が多いのは朱音の仕業だったか。昔からお前は……」
「時雨には関係ありませんの!今まで朱音のことを忘れていたくせに!」
「“神”になった以上、全ての者がその者を忘れる。分かっているだろう」
「それが嫌だからっ、」
「早く代替わりの姫を呼ぶために干渉したと言うのか」
また朱音が唇を噛んだ。
「朱音は!神になどなりたくありませんでしたわ!そうなったのは、花を襲った人間のせいですの!」
「……それが目的でここまでやったのか?そうではないだろう」
「時雨、貴方には分かりませんわ!」
秋雨が溜め息をついて、動けない露李に向き直る。
「すまない露李姫。十四で神になったからかこいつは、本当に考えが幼い……」
「ふざけないでよ。秋雨くん、本気で言ってる?許せるわけないよね、露李にここまでさせてさ。やって良いことと悪いことがあるよ」
殺気を出す水無月に、はは、と露李はまた笑い、今度はしっかりと立ち上がった。
「大丈夫ですよ。でも、助けてくれてありがとうございます、秋雨さん」
───私は、知っている。
全てを終わらせるやり方を。
忘れられるのが嫌だから、神の座を降りたかった。
だから、露李を創った。
けれど、その数奇な運命を見るのは耐えられなかった。
そう、まだ朱音は幼い。
「一人ぼっちは誰だって悲しい」
だから、私が全部終わらせる。
私は終わらせることができる。
「露李…………何をするつもりだ!?」
一跳びでやって来た結が声を荒らげる。
「風花姫も、鬼も。存在しなければ皆が幸せになれる。先輩も、皆も。他との差や、お家での争いに苦しまなくて済む。私も…こんな運命、知らずに済んだ。それって幸せでしょう?」
「やめろ露李、許さねーぞ。絶対、俺は───!!」
結の手をほどいて、笑う。
「──本当は、約束。覚えてるんです」
二度と、どこへも行くな。
「でも、ごめんなさい。守れません」
嘘つきな私で、ごめんなさい。
「結先輩も、文月先輩も、疾風も、理津も、静くんも」
言いながら、自分を覚えている彼等の、最後になるであろうその顔を見る。
「海松ちゃんも、美喜も」
私の初めての友達。
「宵菊さんも、睡蓮さんも」
そして。
「氷紀。ありがとう、ごめんなさい」
「許さないよ。絶対、許さない」
絶対に止めてみせる、という水無月に涙が溢れる。
目元を強く握って、皆に背を向ける。
もう、行かなきゃ。
意識して軽く地面を蹴ると、いとも簡単に身体が宙に浮く。
少し月に近づいた気がした。
結が飛び上がり、追い縋ってくる。
「露李っ!!幸せなんて考えるな!!お前はここでっ…」
「もう嫌なんです!!」
思わず叫んだ。
それと同時に気が発され、結が地面に打ちつけられる。
ごめんなさいと言いかけて口をつぐんだ。
「……う私のせいで皆が苦しむのも、危ない目にあうのも嫌なんです」
「そんなもんっ、俺は──」
「どうしろって言うんですか!!」
解決策なんて無い。
「皆、皆…大好き。だから──さようなら」
念じる。
私は、そのやり方を知っている。
金銀の光が、夜の闇を照らす。
眩く、美しく。
最後の光。
「嫌っ、ねえ、お願い……!!違う、抗って、朱音はっ……貴女に──!!」
生きて、欲しいだけなの。
朱音の言葉に、そっと笑みを浮かべた。
──愛してくれて、ありがとう。
わざと酷いことをして自分を討たせようとしてくれた貴女が、一番弱くて、一番強い。
───私は、消えるけれど。
──私のいない世界で。
──あなたたちが、幸せでありますように。