【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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 ふと、目を覚ますと。

暖かい風が入り込んでいた。

掃除途中だと言うのに、眠ってしまっていたようだ。


桜が咲いている。

それは、共に過ごした日々に降っていた風花ではない。

本物の桜の花だった。


彼女はそっと薄桃色のそれを手に取り、微笑んだ。


終わったんだ、と溜め息をつく。


自分の着ている巫女服は、血糊に濡れたそれではない。


「私の、一番好きな季節」


小さな嘘をつく。

出会いの季節も、別れの季節も。

彼女にとってそれは春ではなかった。


記憶がどんな風に、置き換わったのか。


知りたかったけれど、きっと深く関わることもないだろう。

彼女と彼らを結んだ縁を、彼女自身が消失されたのだから。


──でも、私はどこまでも我が儘だったみたい。



忘れてしまいたかった。

もう自分を覚えていない彼らを、忘れてしまいたかった。

でも、それ以上に覚えていたかった。

忘れたくはなかった。


自分だけが知る彼等など、重くて下ろしてしまいたい荷物だ。

彼らは許さないと言った。


約束を破った。


あの子は泣いていた。


それだけの悲しみを負わせたのだから、これも自分が被る業。


皆は幸せだろうか。

疎まれることなく、姿を偽ることなく、過ごしているだろうか。


「そうだと、良いな……」


自分は関わらないと言いながら、神社の外へ出てしまう。

彼らが学校から帰ってくる時間だということを、彼女は知っていた。

自分が全てを消したくせに、未練がましく彼等の姿を見ていたいと思うのはあまりに我が儘だった。


だから、出会っても声はかけない。


一目見たらそれでいい。


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