【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
*・*・*

何事もなく、一日が終わろうとしていた。


「じゃあな露李。俺らは見回りだから、必ず結先輩たち待ってから帰れよ」


朱雀が鞄を手に持って去り際に呼びかけてきた。


「うん。疾風も気をつけてね」


「露李。俺が恋しくなったらすぐ言えよ?」


「それは無いだろうけど理津も気をつけて」


理津の色気攻撃には慣れた。


「露李、あんたやっぱ侮れないわ」


美喜が鞄に教科書を仕舞いながら露李に言った。


「何が?」


「逆ハーよね、あんたの周りのソレ。あぁ羨ましい」


露李の頭にクエスチョンマークが立つ。


「ぎゃく、何?」

「逆ハーレム、略して逆ハー。乙女の夢、ケー小の王道。あたしもその状況に陥りたい」


「陥るって表現なんだね」


「気にしないで。あー羨ましい」


そんな見つめられると困るんだけどな。


「何か、あのー、ごめん?」


「疑問符が付着してるけどまぁ良いわ。良いのよ、あたしは家帰って『イケメン☆戦国くの一物語』を楽しむから」


何だかよく分からないけど良いや。

半ば投げやりになる露李。

美喜は綺麗に笑って教室を出て行った。

結と文月はまだ来ない

露李は暇を持て余して鞄の上に伏せた。

窓の外には山が見える。

田舎の気候だからだろうか、草木の変化が早い。

赤く染まりかけている山。

茶や黄が混じった緑と赤のグラデーションは、画家やデザイナー達に言わせれば些か趣味が悪い配色なんだろうが──さすが自然、と言ったところか。

美しいと形容するに値する景色だ

いや、価値などつけられない。


綺麗。


露李は感想を心の中に収め、そして最初にこの地で出会った人物を思い浮かべた。

その人は人工的に染め上げたものとは違う、神秘的な輝く金髪と翡翠の瞳を持っている。

いつも賑やかなのに時々自嘲的な笑みを浮かべたりする、分からない人だ。

そう思ってから露李はふっと笑う。


──変わらない方がおかしいか。


睡魔が徐々に露李を襲う。


美しい景色に目を奪われたまま、露李の意識はシャットアウトした。



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