【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

結と文月が来たのはそれから十分足らずだった。


「迎えに来てやったぞー」


教室を覗くと、窓際の席で突っ伏する露李の姿があった。


「露李ちゃん!?」


昨日今日なので背筋が寒くなった二人は急いで駆け寄る。
露李はすやすやと寝息を立てていた。


「何だよ寝てるだけかよ」


二人ともため息をつく。


「人騒がせだね…」

起こしたものか決めかねていると、


「お母、さま」


掠れた声が耳に入った。

恐らく誰にも聞かせるつもりでないだろう声。


「…露李?寝ぼけてんのか」


尋ねるが、純粋に寝言らしい。


「どう、して…私頑張るから。いい子に、なるから……だから、」


置いていかないで。


母親──未琴に向けているだろう言葉。

最後の言葉に、二人は互いに目を合わせた。

いくら本当の自分をさらけ出せる環境ができたとはいえ、露李の肩の荷は重すぎた。

故郷で何があったかは知りもしないが。
  
頬を透明な雫が滑る。

普通なら気が狂ってしまいそうな境遇で、彼女が涙を見せたのは一度きり。

結が息を吸い込んだ。


「露李ー!起きろー!」


露李がハッと体を起こす。


「あれ、結先輩?」


「露李ちゃん寝てたんだよー」


穏やかに文月が笑いかけた。


「文月先輩!あ…すみませんわざわざ来てくれたのに」


「おう、せーっかく結先輩様が迎えに来てやったのに寝てるとはな」


「前言撤回です!」


「何だと!?」


「俺たちこそ待たせてごめんね?露李ちゃん」


「いえっ、全然です!」


「俺と態度が違うくないか、露李ー!?」


また自然と頬が弛んだまま言い返そうとしたところで、頬が濡れていることに気がついた。

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