アタシはイレモノ
「どうぞ座って」


出迎えてくれた先輩のお母さんは声に似合わず若々しい容姿をした人だった。


ともすれば丸尾先輩のお姉さんと言っても通用するくらいだ。


しかし、今は丸尾先輩がいなくなった事で疲れているのか、目の下に黒いクマができていた。


眠れていないのだということが、すぐに理解できた。


あたしと栞理はソファに座らせてもらい、出された紅茶を飲んだ。


「今日は孝也の事で来てくれたんでしょう?」


そう言われてあたしは一瞬キョトンとしてしまった。


代わりに栞理が「そうです」と、頷く、


丸尾先輩の下の名前は孝也というらしい。


「どこに行ったのか、覚えはないですか?」


あたしがそう聞くと、母親は左右に首をふった。


「心当たりは全部探したし、警察も動いてくれているの。それでも、見つからなくて……」


今にも泣きだしてしまいそうなくらい、表情が歪む。


丸尾先輩は一人っ子だったのかもしれない。


その息子が突然姿を消したとなると、心配で胸が潰れてしまいそうだろう。
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