アタシはイレモノ
いなくなる
草むらから出るとあたしはすぐに近くの民家へと走った。


もう夕飯の時刻だから、あちこちの家からおいしそうなオカズの匂いがしてくる。


「すみません!」


あたしは声をかけながら玄関のチャイムを押した。


平屋の小さな一軒家から50代くらいの女性が姿を見せた。


「どうしたの?」


慌てた様子のあたしに目を丸くする女性。


近所に住んでいる人だから、直接会話をした事がなくても何度か見た事のある人だ。


「友達が……大変なんです!」


あの状況をどう説明していいのかわからず、あたしはそう言っていた。


明確にあそこで何が起こったのかわからないけれど、大変な状況には変わりないはずだ。


「まぁ、すぐに行くからちょっと待って」


あたしの曖昧な説明でも女性はそう言い、バタバタと家の奥へと戻って行った。


そしてスマホを手に持ち、すぐに戻ってきてくれた。


そうか。


あたしもスマホを持っているんだった。


パニックになって忘れていたけれど、スマホで警察や救急車を呼んでもよかったのだ。


「なにをぼーっとしているの? 早く案内してちょうだい」


急かされてあたしはやっと動き出したのだった。
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