本当の僕。
Story1
違和感
夏。
辺りの木々を見ると蝉が居て、ミンミンと耳を塞ぎたくなる程五月蝿く鳴いている。
「迅斗っー!」
振り向くと、俺の彼女の浅海 結菜(アサカイ ユウナ)が元気いっぱいに、こちらに手を振っているのが見えた。
結菜の伸びきった綺麗な黒髪が風に触れ、揺れる。
迅斗は俺の名前だ。
藤崖 迅斗(フジガイ ハヤト)。
俺は結菜のもとに、小走りで駆け寄った。
「待たせてごめん。」
「ううん!うちも今来たところ!」
…首筋に汗掻いてる。
走ってきたのか。
「これ、使って。 」
俺はポケットからハンカチを取り出し、自分の手のひらに乗せた。
「え!?いいよいいよ!
汗なんて掻いてないよ!?」
「嘘。首筋に汗掻いてる。」
「え!?嘘!?」
そう言うと彼女は、頬を赤らめながら首筋を手で触る。
「あ…。本当だ…。
じゃあ、お言葉に甘えて…。」
そう言い、僕の手からハンカチを受け取った。