君に届かない。
泉は家路を歩きながら、上がり続ける心拍数を落ち着けるために深呼吸をする。そして、意を決してラブレターを開いた。



" 好きです。OKなら明日の放課後体育館裏まで来て下さい。


日野大和 "



(うわぁ……うわぁ………本物だ。)

生徒会で書記を務めている彼の字を、泉は何度か見たことがあった。だからこれが、本当に日野先輩が書いたものだと確信したのだ。




___やった。私が選ばれた。葵じゃなくて私が。




だが、『好きな人に告白されて嬉しい』という思いよりも先に浮かび上がったのは葵に対する優越感だった。



泉が葵と知り合ったのは高校に入ってからだ。最初は『趣味も合うし良い子だし。仲良くなれそうだな。』と好印象……だったのだが、それはあっけなく崩壊する。


気づいたのだ。自分と葵の間に存在する、越えることのできない壁に。



社交的で可愛く、友達も多い。運動神経が良く行事では引っ張りだこなだけでなく頭も良い。そんな葵に、一体どうしたら自分は勝てるのか。


他人にも自分にも厳しくストイックな泉は必死に考え、せめて勉強だけなら彼女に勝てるのではないかと思った。勉強は努力でいくらでもカバーできる。



そして努力が実った2学期最初のテスト以降、学年5位以内から葵を弾き出し、泉は5位をキープし続けることとなったのだ。





でも、泉の成績が伸びたからといって葵が馬鹿になるわけでもない。全く気にしていない風な葵の様子に、泉のプライドはズタズタに切り裂かれた。
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