君に届かない。
(ああ、やっぱり私が彼女に勝っただなんてただの幻想。)


泉はこの時、絶望すると同時に焦っていた。

"私への告白かと思った"だなんて勘違い女も良いところだ。相手は日野大和だから、正直に理由を話せばちゃんと分かってくれるだろう。それでも泉のプライドは、真実を覆い隠すくらいに高かった。



___葵が先輩と付き合うだなんて、嫌だ。




「……私、葵の友達です。彼女に頼まれて来ました」

「和泉さんの、友達………?」



日野は、不安と緊張が入り交じった目で泉を見ている。『彼女は和泉さんの友達なんかじゃないのでは?』なんて疑問を抱くような質では無いようだ。



そんな様子に泉は心底安心した。




声の震えを隠して、煩い鼓動を抑えて。


そんな技術は、今まで散々養ってきた。




(経験を活かす"嘘つき"は私の得意分野だ。)




「言われたんです。『先輩の告白を断ってきてほしい』……って」

「え……」




演じろ。欺け。


己のプライドを保ちたければ。
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