記憶の片隅に―I don't forget you―
「隣、いいですか?」
声のする方を見ると、黒のスキーウェアを身に纏った長身の男性が、グローブを手にしながら立っていた。
「…はい?はぁ、どうぞ」
椅子をずらし、窓側に身を寄せた。
それを確認をすると、ゴーグルやグローブを無造作にテーブルに置いた男性は、飲食コーナーに向かった。
あちこち、まだ空席があるというのに、よっぽど窓側の席が好みなんだろうか?
テーブルに置かれた荷物を見ながら、そんなことを思った。
まっ、人それぞれ好みがあるからね。
再び、ゲレンデの銀世界に目を向けると、楽しそうに滑る玲子と美香の姿があった――。