黄昏を往く君は

「私はこの戦場で生まれた。だからこの黄昏の色――茜色しか知らない。ここで生まれて、生きて、死ぬ。戦場で、兵士として。そのために生まれ、生かされた――そういう、皮肉」
 私はうまく声が出なかったために、たどたどしく云った。
「親は? 兵士か?」
「おそらくは。母親は医療団の看護婦だって話だ、けど、顔も知らな……」
 なぜこんな話をしているのだろう、と思った。
 まだ私は軍の人間で、死んではいなくて、相手は赤の国の軍人で、戦争はまだ終わっていなくて、つい何時間か、何日か前までは、私はこの人の国の兵士を殺し、この人は私の祖国の兵士を殺していたというのに。



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