黄昏を往く君は


 碧の優しい声を聴きながら、私は穏やかな気分で、横になり、目を閉じる。
 柔らかな気配が隣にある。
 私はぬくい水の中に満ちている。
 碧が私の髪を梳いている。
 私の知らない、母のような手つき。
 心臓がゆっくりと脈打つ。身体が弛緩する。
 なにも恐れるものはない。赤子のように眠る。
 すべてを委ねてしまえば良い、忘れてしまえば良い、と私のどこかが告げる。
 だが、同時に、それで良いのか? と云うものもいる。
 形のない、でも私の中にたしかに存在する、私を人たらしめている部分。
 そいつがまどろむ私を突く。
 胸の内に留めておいた疑問を呼び起こす。
 訊くまいと思い、実際訊くことのなかった疑問。


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