brass band
 とても礼儀正しかった。
『あ、えと、一年三組、渡瀬咲花です』
『あ、はい。えーっと31番ですね。そこの左側の靴箱から自分の番号の所に靴をいれて、4階まで上がってください』
『あ、え、う、はい。ありがとう…ござ…います』
 なんとかお礼を言い、下駄箱へ向かう。
 今年はもう失敗はしない。
 友達をたくさん作るんだ。
 それに、吹奏楽部になんか入ってやるもんか。
 きっと、この傷は癒せない。
 苦しい。
 あんな部活なんかいくもんか。
 兄が、ずっと苦しめられていた部活。
 そこになんか、なんの憧れもない。
下駄箱にはしっかりと【渡瀬咲花】と私の名前が書いてあった。
当たり前とはいえ、こういうのは少し嬉しい。なんとなく、ここにいるみたいな感じがする。まぁ、今日から通うんだけど。
靴を入れて、上靴を履く。
階段は急ではないとはいえ、4階まで上がるのはさすがにきつかった。日頃の運動不足を痛感させられる。とにかく息が上がる。荷物こそそんなに重くはないが、手すりを使って息を切らして上がる。
< 30 / 56 >

この作品をシェア

pagetop