brass band
和樹が私の方を向きながら友花に問いかけている。
友花は、この事情をもちろん知っている。むしろ知らないわけがない。お世辞にも人付き合いがいいとはいえない私は、本音を話せる人なんて限られている。
『だってよ?花』
面倒くさそうに友花は、私に話を振る。
『和樹、何回も説明してるでしょ?』
『いや、へ?』
『……?』
『あー、もしかして面倒事うんぬんの話のこと?』
『あぁ、うん、それ』
なんだ分かってるじゃんと思い、口元が緩む。
『あー……嫌われてないことはわかったからよかったわ』
和樹も私と同様、口元を緩めた。
『そう。よかったね』
他人事のように言葉を返すが、和樹が私の話を覚えていてくれたことが何より嬉しかった。もちろん、理解はしていないだろうけれど。
『……なぁ渡『咲花ぁー!おはよう!』
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