あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
塔に近づくにつれて、剣と剣がぶつかり合う甲高い音が聞こえてくる。
それと同時に魔力の衝撃波を肌で感じた。
あたしたちは、普段訓練で使っている王族しか入れない庭を突っ切ると訓練塔の中に入っていく。
そこでは、城の周囲の警備を担当する警備兵たちが訓練していた。
すると、あたしたちに気づいた訓練中の魔術師たちが慌てて整列した。
訓練に戻るよう促すと、彼らはバタバタと訓練へと戻っていく。
けれど、軍隊長はぴしりと直立してあたしの横に残ったままだ。
彼の身体は引き締まっており、魔術師というよりかは屈強な兵士、と言った方がしっかりくる気がした。
ウェズリアの兵士は皆、魔術師だからその言葉の例えは正しくはないのだけれど。
魔術師と言ったら身体は貧弱、といったイメージが未だ脳の片隅から離れないため仕方がなかった。
「警備兵長を務めております、ヨーカと申します。魔女様、御用命を」
ヨーカと名乗った軍隊長は、今一度敬礼した。
どうやら、この屈強な魔術師はあたしの命令を待っているようだった。
直属の上司ではないものの、魔術師としての階級はあたしの方が上だ。
普段目にしない目上の存在が現れたら誰だって畏る。
ここは命を与えたほうが色々と都合が色々といい。
「魔術師 クレアに用がある。彼女を呼んで欲しいの」
「クレアとは、〈赤〉のチームの10歳の魔術師でお間違いないですか」
「ええ。あたしが呼んでいるとだけ伝えて」
「かしこまりました」
体育会系魔術師は、小さな魔法陣を掌に呼び寄せるとクレアに召集をかけているようだった。
そして、敬礼を再びすると、ヨーカ魔術師は訓練へと戻っていく。
それと入れ違うようにして見慣れた顔が部屋の奥から現れた。
その後ろには、長身の男の人が立っている。