あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]



 あの榛色の髪の男の人が噂のクレアの使い魔、イケメンさんだな。

 
「お待たせしました、まおさん! 今日はなにか、用があったんですか?」


 キラキラ~と、後ろに花が咲きそうな勢いで、クレアは微笑む。

 なんだか、最近クレア、年相応になってきたかも。

 今まではそうじゃなかったとか、そういう意味じゃないんだけど、クレアは前まではそんなに無邪気に笑おうとしなかった。

 笑っていても、どこか悲しげだった。

 だけど、今は力の抜けた柔らかな笑みを浮かべている。

 よかった。

 今は、その悲しみが感じられない。

 たぶんそれは……このイケメンさんのおかげだな。

 イケメンさんの、クレアを見つめる目は、とても優しくて穏やかだ。

 まるで、歳の離れた妹を見る目。

 微笑ましくて笑顔で二人を見ると、当の二人はその視線に気づいたのか、慌てて目を逸らしてイケメンさんの背中を押した。


「あ、紹介が遅れましたね。この人は、私の使い魔で」

「ショウと申します。いつもクレアがお世話になっております」


 背中を押されたショウさんは苦笑してからこちらに身体を向けると、ゆっくりとお辞儀した。

 礼儀正しい……。

 確か、歳の差8歳だっけ?

 ショウさんは、カカオと同い年なんだ。

 カカオとはまた違ったイケメンで、その落ち着いた雰囲気と物腰から、その歳よりも大人に見える。

 
「こちらこそ、お願いします。ショウさん」


 日本人としての習慣のせいか、ぺこりと頭を下げて返す。

 すると、ショウさんが焦った声を出す。


「“さん”は、やめてください」


 でも、ショウさんのほうが年上だし……。

 いきなり初対面の人を呼び捨てするほどあたしはふてぶてしくない。


「まお様の方が、身分が上なので」

「身分って……」


 その言葉を聞いて、少し苦しくなる。

 確かにあたしの階級は魔術師の中で一番高い『魔女』。

 その階級のせいで、人から良い意味でも悪い意味でも距離をとられてしまう。

 しかし、あたしが『魔女』であるという理由で線引きされてしまうのはどうしても心苦しかった。

 答えに困っていると、クレアがぺチンとショウさんの頭を叩いた。


「そうですよ。それに、私もショウって呼んでいるんで、普通に呼び捨てで構わないです」


 クレアが言うのか。

 しかも、抗えない兄貴と兄貴を尻にしく妹……。

 そんな感じがしてしまい、あたしは思わず吹き出してしまった。


「まおさん?」

「わかった。じゃあ、貴方も様はやめてほしい」


 その提案に彼は少し悩んでいたものの、あたしが折れないことに諦めたのか、ようやく頷いてくれた。


「では、ショウ!これから、よろしく!」


 あたしはショウに手を指しだし、あたしたちはしっかりと握手した。




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