あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]


 転移魔法陣を使って、オスガリアの城の門の前まで来たとき、あたしは立ち止まり、中へと声をかけた。

 いきなり城の中に現れるような無礼はいくら親しい間柄のあたしたちと言えど、許されない。


「紗桜ー?」


 返事はない。

 当たり前だ。

 この場に門番はいない。

 さて、どうしたもんか、と頭を捻ったとき、しゃらりと耳元で音がした。

 耳には、天使を象ったイヤリング。

 これは紗桜とふたりで分け合い、つけているイヤリングで、魔力を込めて使えば通信することができる。

 そういえば、使ったことがなかった。

 せっかくだし、使ってみようかな。

 その天使に魔力をわずかに込めた指先でそっと触れた。

 すると、天使の瞳部分が淡く青い光を放つ。


『──麻央?』


 光が弱まり、一呼吸おいたとき、イヤリングから聞き慣れたキレイな声が漏れて来る。


「あ、紗桜?あたし、今オスガリアのお城の門の前にきてるんだけど、中に入れてもらえないかな」

『なかなか入ってこないからなにかと思えば』

「一応あたしは国を代表してきているんだもの。いきなりお城の敷地にずかずか入るのはまずいと思って」

『変なとこで律儀ねぇ、まあそこが麻央らしいか』

「あたしだけじゃないんだけど、いい?」

『麻央の仲間なら信用してるわ、さぁどうぞ』


 紗桜の声が途切れるとともに、ギギィ……と鈍い音を立てて、門が勝手に開き始めた。

 遠隔操作……。

 さすが紗桜。

 あたしたちは、恐る恐る門の中に足を踏み入れたのだった。





< 29 / 87 >

この作品をシェア

pagetop