あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
「魔法陣の模様がルクティアの紋章だったというのは間違い無いの?」
紗桜がクレアに向かって話しかけると、クレアは一礼して一歩踏み出した。
「はい。再度確認するため、ありったけのルクティアに関する資料を検索してみました。わずかな情報しかありませんが、古い文献によると一致する箇所がいくつもあります。私の記憶が正しいのなら、この模様です」
確認していただけますか、とクレアが空中に紋様を浮かび上がらせる。
二つの翼が重なり、中央に紋章がある。
紗桜はその紋章をじっくりと見つめ、唇を震わせた。
「確かに、これはルクティアのものだわ……」
紗桜はにわかに信じがたいといった風に脱力して椅子にもたれかかった。
「それではまるで……ルクティアが、使い魔を集めているみたいじゃない」
「ルクティアが使い魔を集める……でも、確かにそうも取れるかも」
「でも、本当にルクティアが?使い魔をどうして?何のために?」
紗桜は混乱した様子で捲し立てた。
「それはまだ……わからない。でも、可能性があるかもしれなくて……。それと、紗桜のことが聞きたくて来たの」
「私……?」
紗桜は不思議そうな顔をして、翼を軽くはためかせた。
あたしはこっくりと頷く。
「なんで出入りが許されていないルクティアから、紗桜は出てこれているの?」
これは、ずっと疑問だったことだった。
かつて、地球にいる前に、紗桜はこのオスガリアに囚われし天使だった。
今は地球から戻ったから下界にいるといえど、昔の紗桜はなぜ、ここにいたのだろうか。
ルクティアはいかなる神も天使も出入りすることを禁じていると聞く。
なぜ、紗桜は下界に降りてきているのか。
すると、紗桜は一瞬表情を硬くした。
それをあたしは見逃さない。
「紗桜?」
「ああ、ごめんなさい。私がどうして下界にいるのか、ってことよね」
あまり、触れられたくない内容なのだろう。
何かを隠したいとき、紗桜は普段からは考えられないような不器用な笑顔を見せるのだ。