あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
「私は、例外なのよ。私の一族は太古の昔、ある罪を犯したらしいわ。そのときから、天界にいることを許されず、下界に降ろされた。そして代々オスガリアを守護してきたらしいのよ。けれど、私がこのオスガリアを守護をし始めた時にはもう、一族は滅んでしまって、詳しいことは何もわからないわ」
紗桜は悲しそうに微笑んでいる。
ああ、嫌なことを思い出させてしまったのか。
自分のことのように苦しくなってしまう。
ごめんね、と言おうとして、紗桜はそれすらも見越したように微笑んだ。
大丈夫よ、と。
どんな罪を犯そうとも、ルクティアからは出ることは叶わないと聞いている。
そんな、例外があるとは知らなかった。
下界に降ろされた天使がいるなんて。
ルクティアは、謎に包まれた場所だ。
下界に降りてきている情報など、微々たるもので、しかもそれが真実とは限らない。
使い魔が消えた魔法陣は、ルクティアのもので間違いない。
紗桜が下界にいるのは、先祖の罪の償いの為。
ここへ来るときに持っていた二つの疑問は一応解決したことになるだろう。
「魔法陣を一度目にできれば、何か対処法はあるとは思うんだけど」
使い魔が行方不明になるところに偶然居合わせることなんてそうそうないだろう。
ここから、どうしたら。
途方に暮れていると、紗桜が
「私、ルクティアの長老の天使に聞いてみるわ。……話を聞いてくれたら、だけれど」
と言った。
「連絡、取れるの!?」
「ええ、一応回線はあるの。ただ、向こうが答えてくれるかはわからないわ」
そんなものがあるなんて。
連絡手段すらないと思っていた。
やはり、下界でのルクティアに関する知識は信憑性がなさすぎる。
「連絡は後で取るとして……そういえば、麻央の使い魔は大丈夫なの?」
「あたしは大丈夫だよ。ほら、この黒猫があたしの使い魔 シュガーっていうの」
いつのまにいたのかシュガーが、あたしの肩の上、髪の間から顔を出し、にゃあ、と鳴いた。
シュガーは、肩から飛び降りると、クルリと一回転。
次の瞬間には、魔力が立ち上り、人間の姿になる。
「紗桜様。俺がまおの使い魔 シュガーと申します」
恭しくお辞儀をすると、紗桜の手を持ち上げると軽くそこに口づけた。
普段はこんなことしないのに!
シュガーったらキザなんだから!
そして、紗桜も全く動じず、シュガーの行為を許している。
この紳士から淑女にされるマナーは、紗桜が地球にいた時に大財閥のお嬢様だったときから慣れているのかもしれない。
ものすごく、絵になっている。
けれど、慣れないあたしは思わず、手で目を覆ってしまった。
「まぁ、麻央の使い魔は黒猫なのね。しかも、人間になるなんて……この子、魔力が強いのね。麻央とも相性がとても良さそう」
紗桜に褒められて、あたしは頬を掻いた。
「へへへ。シュガーとの相性はバツグンだから!」
シュガーのことを褒められると、自分のことのように嬉しい。
紗桜はどこか驚いた様子だ。
「まさか、麻央の使い魔も、猫だとは思わなかったわ」
「“も”?って、まさか、紗桜……」
あたしの言葉に、紗桜はニッコリと微笑んだ。