あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]



 もう一人、回復役を連れてこれればよかったけれど、治癒魔法を使える妖精族は人口がウェズリアの中では極端に少ない。

 だからウェズリア軍隊直属魔術師〈翡翠〉のチームメイトも少ないのだ。

 また、この国際問題にも発展しかけない状況に、状況を知る者をこれ以上増やしたくはない。

 もし、この事件に本当にルクティアが関わっているとしても、誰が犯人か、何が起こっているのかほとんど全容が見えてこない。

だから、真実を知る味方は少ない方がいい。


「────」


 歩みを進めていた時、何かに気づいたのか、ルクレーシャが動きをぴたりと止める。

 あたしも異様な魔力を感じ取り、息をひそめて手に魔力を点した。

 この感じ……クレアたちじゃない……。

 これは……。


「──ご機嫌麗しゅう、魔女様、〈始まりと破壊の神〉」

「っ!?」


 突如として森の奥から現れたのは、黒いマントを着込んだ人。

 声は加工されているように、幾重にも重なって聞こえて来る。

 さっきの異様な魔力は……この人からだ。


「あなたは、誰……?」

「ああ、これはすみません。申し遅れました。そうですね、私は〈真の王者〉とでも言っておきましょう」

「〈真の王者〉……?」


 は?と返さなかったあたしを、誰か褒めて欲しい。

 魔界にやってきて、魔女なんてやってるあたしからしても、思わず、「こいつは何言ってるんだ?」と言いかけた。

 そんなことはつゆ知らず、ククク、と肩を震わせて笑うそいつは、あたしが聞き返すと頷いた。


「ええ。この国、ウェズリアは残酷だ。自ら犯している罪を、誰も自覚していない」


 ウェズリアが、残酷……?

 自ら犯している罪を、誰も自覚していない?

 どういうこと……?

 意味がわからないけれど、一つだけわかるのは、何かしら、ウェズリアに恨みでも持っているということ。


「なにが目的なの……?そして、あなたはウェズリアの者ではないわね?どうして、ここに入れたの」

「確かに私はウェズリアの者ではありません」


 でも、魔力に似た力を感じる……。

 これは?

 感じたことがあるようで、ない。


 
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