あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]


 それを横目に魔法陣を新たに構築し始める。

「まお!ムチャはしないで!」


 男の攻撃を避けたルクレーシャが、叫ぶ。


「大丈夫!」


 ムチャなんかじゃない。

 あたしがやらなきゃ。

 だってあたしは、『魔女』だから。


「ルクレーシャ! 五秒だけお願い!」

「……!わかったわ!」

「何を」


 叫びと共に、目配せすると、ルクレーシャが最大出力の天力を放ち、一瞬男に隙ができる。


 その一瞬をついて、出来上がった魔法陣を高く空に──打ち上げた。


「なにを……っ!」


 高く打ち上げられた魔法陣は、クレアのいる当たりで止まると、光を放つ。

 そして、一瞬にして、あたしの目の前にクレアが現れた。


「なにっ……!」


 男が絶句する。

 あたしはクレアを包む繭を剥がすと、木に寄り掛からせた。

 よかった、うまくいった……。

 今のは、転送魔法陣の逆バージョンだ。

 あたしが行くのではなく、逆にあたしのもとにこさせるためのもの。

 つまり、召喚魔法陣に近い。

 実はずっと練習してたんだ。

 ぶっつけ本番だったけど、よかったよぉ、本当。


「くそっ」


 人質を取られた男は、ようやく焦りを見せる。


「よそ見は禁物よ」


 クスリと笑ったルクレーシャから、刃と化した羽根が飛んだ。

 そのあまりのスピードについていけなかった男は、防御ができず、刃を全身に受ける。


「グアッ」


 ようやく男は、膝をついた。

 あたしとルクレーシャが、反対から挟み込み、逃げられないようにする。

 
「さぁ、あなたをウェズリア国王のもとへと連れていくわ」

「…………」


 男は項垂れてしまい、抵抗する様子も見せず何も言わない。



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