あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
その弱音を隠すように、クッションに顔を埋めれば、あの黒猫のお日様を集めたような匂いの残り香がある気がした。
さて、一度冷静になってみよう。
今のあたしの感情は、「カカオに甘えたい」ということ。
好きな人が出来て、両想いになるなんて初めてだし、甘え方とか……わかんないよ。
あたし、恋愛初心者だし。
相手、一国の国王だし。
そして、あたしはその国王に仕える魔女。
ただでさえ、経験がないのに、この『普通』が通じない関係で、どうやったら……?
うわあぁっ!
もうどーしたらいーの!?
世の中の恋人はどうやっているんですかね?
だれか教えて!
一人、ベッドの上で悶絶していると。
「なにバタバタとやってるのよ」
突如、凛とした声が、頭上に降ってきた。
えっ、誰!?
ガバリと身体を起こせば、そこには。
「紗桜【さくら】!どうして?」
いつもの神々しい天使姿ではない、地球にいたときの制服、黒髪黒目姿の紗桜がいた。
「オスガリアにいるはずじゃ……」
「陛下から連絡があってね。大変なことがいろいろ重なってるみたいじゃない」
「紗桜、オスガリアはほっぽっといていいの?」
すると、紗桜は一瞬キョトンとして、次の瞬間、昔みたいに爆笑した。
「確かに、そうね。でも大丈夫よ。この姿は私の分身に近いものなの」
「ぶ、分身……」
「力はいつもより抑えられててあまり使えないけれどね」
だから、天使の姿じゃないんだ。
それでも、紗桜からほとばしる天力は、凄まじいものだ。
それによくよく目を凝らせば、輪郭がホログラムのように微かにぼやけている。
それが実体のないものであるということが窺えた。
「ルクレーシャからある程度は聞いたわ。麻央の使い魔も今のところ行方不明だと」
「“心”は繋がってるんだよ?でも、喋れないし、感情も読みとれない。ギリギリ細い糸で繋がってるような、今にも切れちゃいそうな危ない状態なの」