あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
それからしばらく紗桜はあたしの頭を撫でていた。
その優しさに、心地よさに、ぐずぐずと甘えてしまう。
「ゴメンね、ありがとう。もう大丈夫」
「いいのよ。親友の危機なんだもの。それより、ウェズリアで捕らえられたあの男のことだけど……」
まるで聖母のように微笑んだ紗桜は一呼吸置くと、突然表情を硬くし、顔を寄せてくる。
紗桜のいう、『あの男』とは、あの日あたしとルクレーシャで捕えた者のことだ。
彼女曰く、天界となんとか連絡をとることに成功したらしい。
これまで何度連絡を試みても無反応だった、一度も答えてくれなかった天界側が、紗桜の要請に応えたのだ。
そして、彼らが言うには。
「やはり、天界の者ではあるらしいわ。それだけは確実ね。けれど、不思議なことがあって……」
「不思議なこと?」
聞き返すと、紗桜は険しい表情で頷いた。
「天界上層部の天使や神たちは、頑なにあの男についてなにも語ろうとしないの」
え?
あの、天力、神を崇拝し、自分たちは他の者と違うという誇りが高いと噂のルクティアの住人が?
あの男を自分たちの仲間と認めたくせに、内情は一切言いたくないらしい。
何か後ろめたいことがあるなら、仲間でもなんでもないと言い切って仕舞えば、まだ清々しいのに。
けれど、天力は天界の住人にのみ授けられる唯一無二の力。
そのことがあたしたちにバレているから、否定のしようがなかったということか。
「うーん、何が起こってるかよくわからないけど、これは上も知った上での行動ってこと?」
「それなら、ルクティア上層部は真っ黒よ?私が連絡をとったのはまさに、ルクティアを治めている者たちだもの。あの男が独断で動いていたにしろ、上層部にとっても嬉しくはないことだったのね。無断で下界に降りてきているだろうし、いきなり他国を侵略します、みたいなことを勝手に言ってるわけだし。いきなり長年交流を持たなかった他国に対して侵略なんてするかしら。まして、あの天界なのよ」
紗桜の言う通り、天界の住人たちはそこまで馬鹿だとは思えない。
これなら、ついこの前戦ったとある堕落王族親子を思い出してしまう。
あそこまで落ちぶれた支配者など、他にいないだろう。
「でも、あの男がもし、本当に天界の上層部と関わりを持っていたとしたら……」
紗桜の次の言葉は簡単に予想できた。
男の目的はウェズリア侵略。
つまり……。
「ルクティアが、ウェズリアを狙っている……!」