あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]


 本棚の扉を閉めて、本を改めて見てみる。

 焦茶色の革でできた本の表紙は年代物なのか、折れ曲がり汚れて劣化している。

 埃を払う魔術をかけると、本はわずかに形をもとに戻して綺麗になる。

 埃が取り払われた字は、金箔が押されて彫られていることに気がついた。

 けれど、その文字は見たことがなく、魔力を込めても読むことができない。

 ウェズリアの文字ならあたしの魔力に反応して勝手に翻訳されるはずだ。

 紗桜に少しだけ習ったオスガリアの文字とも違う、造形文字のようなそれ。

 つまり、これはルクティアの文字で書かれているのではなかろうか。

 リストが探し出してくれたこの文献は、ルクティアの資料が欲しい、といって選んでもらったものだ。

 少なからず、関係があるはず。

 けれど、読むことは叶わない。

 ルクティアの文字をわかりそうな人といえば、紗桜とルクレーシャだけれど紗桜だって、一国の主だ。

 しょっちゅう会えるほど、ヒマじゃない。

 しかもただでさえ今はあの男が捕まった件でいろいろと頼ってしまっていて、追加で何かを頼むことなどできるわけがなかった。

 となると……あたしがなんとか字を読み解くしかないよね……。
 

「何かしらの方法見つけないと……」

 
 このまま翻訳しようとしても、何の資料もないこの状況で無謀なことはわかりきっている。

 高校の時の辞書で調べつつ英文を和訳するわけでないのだ。

 リストが見つけてくれた資料はこれ一つのみ。

 辞書など期待できない。

 せめて誰か、助っ人……!

 そのとき、ある人の顔が脳裏を過ぎった。

 もしかしたらあの人なら……!

 わずかな期待を胸に図書室を後にした。




< 66 / 87 >

この作品をシェア

pagetop