あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
静まりかえった空間に、あたしの靴音だけが妙に大きく響く。
真っ暗な視界の中、螺旋状になっている階段を下りていくと、じょじょに光が見えはじめた。
階段を降り切ると、木でできた扉が一つ、そこにあった。
小さな窓から中を覗けば、ゆらゆらと揺れる蝋燭の火が見えた。
「──はい」
扉を数回叩くと、中から少し嗄れた男性の声がした。
「あたし、まおです」
「お入りください。扉は開いています」
「失礼します……」
入室の許可がおりて、手にしていた本を今一度強く抱きしめると、ゆっくりと扉を押した。
「お久しぶりです、まお様」
中へと進むと、そこは研究室になっていて、奥に一人の年配の男性が座っていた。
あたしが歩み寄ると、彼も立ち上がってくれてぺこりと一礼する。
「突然押しかけてすみません、モルガさん」
「いえいえ。来ていただけて、とても嬉しいです」
そういってフワリと笑ったのは、背が高く白髪が目立つモルガさんだった。
あたしがこの世界にきたとき、サーチェルについて説明してくれた、この王室御抱えの研究室に所属しているこの国の魔術や歴史に至るまでいろんなことに精通している人だ。
また紳士という言葉がピッタリで、白髪でも彼をかっこよく見せる要因に過ぎなくて、小さな老眼鏡もまた彼を引き立てている。
滲み出る大人の渋さ、というやつがまた堪らない。
「今日はどのような用事で?」
モルガさんはクセなのか、眼鏡を中指で押し上げる。
どこか好奇心を讃えた青い瞳が、眼鏡の奥でキラリと光った。