あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
「私はほかの人よりものを覚えるのが、少し得意なだけです」
モルガさんはまたずり落ちていないのに、眼鏡を押し上げた。
「それでもすごいですよ!」
いいなぁ……。
完全記憶能力なんて持ってたら、テストとか丸暗記できそう……。
ああ、なんかあの世界と無縁になってから、ふと何かあるとそっちに繋ぎ合わせて考えちゃうなぁ。
……なんて、バカなことを考えるのは後にして。
「これ、ルクティアのもので間違いないですか?」
本題に入ることにした。
モルガさんは軽く頷いて、本の表紙を指でなぞる。
「この文字については、推測の域を出ないのであくまで仮定ですが、ルクティアのものと言って良いでしょう。過去に私も気になり調べて見たのですが、ウェズリア大陸、オスガリア大陸、どちらの国にも同じ文字を使用している形跡は見つかりませんでした。よって、これはルクティアのものと考えて良いでしょう。歴史、というのは中を見ていただければお分かりになると思いますが、年表のようなものが見えます。ほかに家系図のようなものも。よって、これは国の成り立ちなどを記したものではないかと推測いたしました」
つらつらと流暢に語られた内容に、彼が費やした努力の結晶が伺える。
「もしかして、やっぱりこれ読めたりします?翻訳とかできませんか?なにか魔術でそう言った類のものとか」
無理を承知で頼み込んでみる。
するとモルガさんはしばらく考え込んでしまう。
「翻訳する、という魔法はありますが、ルクティアの言葉を訳せるかは……今のところ、なんとも言えません」
「そうですか……」
やっぱり、難しいのかなぁ。
紗桜に頼み込みにいくしか……。
自分でなんとかしたかったけれど……。
シュンとあたしは俯いた。
すると、モルガさんが本を手に取り、パラパラとめくり始める。
「いや、なんとかなります」
「本当ですか?」
「はい」
モルガさんは本を胸に、しっかりと頷く。