あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]
回想に浸っていると、すこし部屋に緊張感が走る。
「指定されている時間はそろそろね」
準備を済ませた紗桜が結界をこの部屋に張り巡らせ、他人が入ってこられない様にしたとき、部屋の隅で丸くなっていたルクレーシャがそう言った。
どうやら、この部屋に直接出入り口を開く予定らしい。
しばらく待っていると、ぐにゃりと部屋の中央で空間が歪んだ。
ぽっかりとその一部分だけ浮かんでいて、この白銀の部屋の中では異質としか言いようがない。
どうやらこのいろんな絵具の色を混ぜたような空間がお迎えらしい。
とくに誰か使者がいるといった風もない。
出入り禁止の国であるルクティアは自国の者を外に出すのもそう簡単にはできないのだろうから仕方ないのだろうけど。
せめてお迎え欲しかったかな。
一応公式の訪問になるのだし。
紗桜とカカオには一旦距離を取ってもらって、ルクレーシャとあたしでその物体を慎重に調べる。
唐突に現れたこの不思議な物体に警戒するな、という方が無理だ。
なにかルクティアのものであると一目でわかるようにしておいてくれたらよかったのに。
そして、その物体の絵具の一部分から、あの翼が交差した紋を発見した。
ひとまず、これはルクティアが施したもので間違い無いだろう。
そういった結論をルクレーシャと決める。
「それじゃあ、行きましょう。あとはよろしく頼むわねルクレーシャ」
「ええ」
王座に堂々と座って、紗桜の言葉に尻尾を優雅に振って答えるルクレーシャ。
紗桜もそうそうこの国を空けるわけにもいかず、ルクレーシャが代わりに残ることになったようだ。
もとより、ルクレーシャはルクティアに行くことに前向きではない様子だった。
二人の互いの利害が一致したということで、こういう風になったみたい。
そしてあたしたちは、紗桜を先頭にして、そのぐちゃぐちゃに混ざった絵の具に飛び込んだ。
途端に、グワリと背後で景色が歪み、一瞬で白磁色の壁や床が遠くなる。
前は……見えない。
ただ目の前にあるのは、紗桜の見事な純白の翼のみ。
この暗闇の中、ほんの少しの緊張と恐怖が過ぎる。
これはどこに向かっているのだろうか。
本当に天界につくのだろうか。
そんなことが脳裏を駆け巡るが、感情に出すことは憚られて、ただひたすら口をひき結んで真面目な顔を作る。