あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。[2]


 それよりも。

 窓の外の景色から視線を外して、彼の顔を前から見据えた。

 彼も、同じタイミングであたしを見つめる。

 数秒、時が止まった感覚に陥る。

 夏の空を思わせる、あたしの愛しい碧。

 そのまま、膝の上に乗せられていた彼の手に自分のそれを重ねる。
 いつもよりも幾分も冷たいそれは、すぐにあたしの掌を包み込んだ。
 堅く、堅く、痛いくらいに握られて、けれど彼は眉一つ動かさない。

 貴方は今、なにを思っているのだろう。あたしの想像の何十倍も複雑な思いを抱いているはずだ。

 ──苦しんでいる。

 けれど、そんなことはおくびにも出さない。彼は普段から感情を表に出さないし、王である以上、コントロールする術を身につけているはず。

 けれど、わかる。

 もう片方の空いた手を、彼の頬に添えれば、軽く一瞬擦り寄って、目を閉じた。
 けれど、すぐさま体温は離れていく。

 そのタイミングで「到着いたしました」という使節団の声が外からかけられた。

 気持ちを入れ替えて今一度彼と視線を交えると、そこには既にウェズリア王国国王陛下としての彼が居た。

 馬車の扉が開かれ、車外へと出る。

 先ほどまで遥か彼方に見えていた、天空の城が目の前に君臨していた。

 白の城壁だと思っていたものは、よく見れば、透き通っている。透明な硝子のようなもので造られているのだ。

 ぴりぴりと肌で感じるほど、ここは強い力が充満している。

 きっとこれが天力なのだろう。

 普段はっきりと感じることはできないあたしでも、ここまで高密度で澄み切った天力はいやでもわかる。

 正直、長時間ここにいるのはキツそうだ。
 しかし、そんな弱音を吐くわけにもいかない。

 ぐっと唇を引き締めて、あたしたちは城内へと足を踏み入れたのだった。


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