ツバサをなくした天使 〈あた魔女シリーズ〉


「だって、私にしかできないんだよ?この村は、魔法使いしかいなくて、魔力の訓練をしてないひとが多いの。私はこの半年でずっと訓練してきた。この村で1番魔術を使えるのは先生を抜いて私ひとり。その先生ももうご高齢で外を自在に歩けない。それにこの事件を解決しないと、軍隊には入れない気がするから」

〈クレア……〉

「私は、やる」


 強く、言いきった。

 動揺していることを悟られないように。

 本当は、心の底は、不安でいっぱいで怯えていた。

 だけど、自分より幼い男の子が涙をこらえて私に頼み込んでいる。

 私は、もう一度男の子に退治の依頼は受けると言った。

 男の子はたちまち嬉しそうな顔をして、家の方へと駆けて行った。

 しばらくその後ろ姿をぼんやりと見つめていると、ふわりと肩に重みを感じる。

 私の肩から出ている二つの腕。


「……我慢しないで」


 吐息が、耳もとにかかり、胸が高鳴る。


「……ショウ」


 彼の腕を抱きしめると、じわりと今まで泣くまいとこらえていた涙がにじんだ。


「ムリはだめだ。これでクレアが倒れたら元も子もなくなるし、あの男の子が責任を感じてしまうのは確かだ」

「……大丈夫。これは、私が受けた依頼だもん。でも……」 


 私はより一層、彼の腕を抱きしめた。

 か細い声が、喉の奥から漏れる。


「──怖い、怖いの」


 彼の腕の力が、より強くなった。


 
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