ツバサをなくした天使 〈あた魔女シリーズ〉



 私の背に残っている、蛇に傷つけられたミミズ腫れのような傷痕。

 これは、いくら治癒魔法をかけても、治らなかった。

 いや、そうじゃない。
 
 特殊な魔力の入った毒だったのか、私の傷痕は魔法を受け付けず、すべて跳ね返してしまったのだ。

 ショウも、きっとそうだ。

 どんな回復魔力も目覚めさせる魔術も効かなかった。

 バケモノに受けたキズのせいで、変化できなくなっちゃったんだ。

 よくよく探ってみれば、魔力だって微々たるものとなってしまっている。

 ショウに、何と言葉をかけたら良いか、わからない。

 鷹になることもできなくなってしまったんだから。

 もう、大空を自由に飛べない。

 その翼は捥がれてしまった。

 私の、せいで。


「ショウ……大丈夫?」

「……どうしてだ?」

「私、あなたの主として相応しくない。貴方を危険な目に合わせた。傷を負わせ、一年間も眠らせたままにしてしまった。そして、魔力だって……!」

「クレア」

「っ……!」


 柔らかく優しい声が、聞いたこともないくらい低く、低く、響く。

 彼の顔は見たこともないくらい、怖くて。

 けれど、次の瞬間にはまた柔らかく微笑みかけた。


「クレア」


 ふわりと、抱きしめられ、ぽんぽんと大きな手が頭を包み込んだ。


「泣かないで。いつから君はそんなに泣き虫になったんだい?」

「それは……」

「オレは何も後悔してないよ。君が負い目を感じることはない。君がオレから離れることはあっても、オレから離れることはないよ」

「そんなっ!私がショウから離れるなんて!こんなこと、あるわけない!」

 
 ぼろぼろと大粒の涙は頬を伝って落ちていく。

< 38 / 41 >

この作品をシェア

pagetop