ツバサをなくした天使 〈あた魔女シリーズ〉
02

***


 小高い丘の上。

 空が青く晴れ渡っている。


「ショウ! いい?」


 背にある大きな榛色の翼に話しかける。 


〈いいよ、準備はできてる〉


 脳内に声が響くと共に、翼が強くはためいた。

 足が大地から離れる。

 特有の浮遊感が身体を襲った。

 この背にある翼は、ショウが変化した姿だ。

 あれから一ヶ月が経ち、私はショウを翼に変化させ、空を飛んでいた。

 普通は飛行する際、使い魔を箒などに変化させるのが主流なのだけれど私は違った。

 空高く舞い上がって、風を全身に受けて、風に逆らって飛ぶのが、とても心地いい。

 イヤなことをすべて忘れられる。

 空の中では、私ではない何かになれた。


〈行くぞ〉


 ぶわりと、後ろでショウが大きくはためくのがわかった。

 とたんに一瞬にして地が遠くなる。

 目を伏せて、身体を使って大きく深呼吸をする。

 冷たい風が、頬をかすめていく。

 一度大きく宙返りを決めると、空をつんざくように飛ぶ。

 すぐに目前に岩山が迫って、寸前で避けるように身をよじる。

 急上昇し、また急降下する。

 それの繰り返し。


「あっ! “天使”だ!」

〈呼ばれているよ、クレア〉

「だね」


 地面スレスレだった身体を、ぐうんと持ち上げ、急上昇する。

 私たちの村では、ショウを翼にして空を舞う私を、“天使”と、村の子供は呼んだ。

 地面に引きずるほど大きな翼を持ち、大空を自由に飛ぶ私は、実際に天使を見たことのない子供たちには天使に見えたんだ。



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