ツバサをなくした天使 〈あた魔女シリーズ〉


「それは……」


 答えられなかった。

 言葉が、口から出なかった。

 私は、本当はどうしたいのだろう。

 父さんと母さんに言われたから。

 そうしないと、私が魔力を操りきれず、またなにか起こしてしまうかもしれないから。

 だから、私は軍隊に入る。

 だから?

 私は、“入りたい”の?

 今まで、父さん母さんの言葉に従って生きて来た。

 聞き分けの良い、手のかからない子。

 それは、嫌ではなかったし、自分の生き方に合っていたから。

 それが正しいと信じていたし、何より両親が大好きなのだ。

 両親の言葉に従ったとしても、それが私の意思であると思っていた。

 けど、これは……。

 ……わからない。

 自分が、どうしたいのかが。

 私の意思は……?


「わからない、わからないの」

「……そうか」

「でも、私の魔力はどんどん増加してる。確かにこのままじゃ、私が扱い切れるのかわからない……」


 決して多くない財産を使って、母さんたちは私にショウを与えてくれた。

 出会わせてくれた。

 ショウと出会ったことで、今までの世界が、一変したの。

 ショウは私にとって、相棒で、お友達で、まるでお兄ちゃんみたい。

 今までの私は、一人でいても平気だと思っていた。

 けど、彼と出会ってから、甘える方法を知ってしまったみたい。

 自分にも、こんな年相応な部分があるなんて知らなかった。

 やっと、ありのままの自分でいられた気がした。

 それに、軍隊に入れば、給金がもらえる。

 これで母さんたちに仕送りができる。

 だったら、母さんたちに恩を返すというものが常識でしょう?

 これが、私にできる親孝行なら、私は喜んでやろう。

 軍隊に入って、なにができるのだろうか。

 私が軍隊に入ったとして、そのことが私にどうプラスするのか。

 魔力量が有ることは分かっているため、実践に関しては軍隊に入ってから調整していくことになるだろう。

 考えて、ふと思いついた。

 そうだ、『知識』

 村にある図書館で、色々な文献を読んでみたりして、知識を増やしてはいるものの、村の図書館も知れたもので、そこまで高度な魔導書などなかった。

 学校の先生にもう教えることなどない、と言われるほど、村の本も教科書も読み込んでいたが、知識欲は収まらなかった。

 魔術師として軍隊に入れば、国立図書館に出入りすることも許される。

 もっと多くの本を読むことができ、学べる。

 軍隊に入ったら、と想像するとむくむくと欲望が湧き上がってくる。

 学校など、考えたこともなかった。

 ましてや、軍隊なんて。

 でも、もし軍隊に入れたのなら。

 無意識のうちに諦めていた、『学ぶ』ということができるのだ。

 そう考えると、いいことづくしのようにも思えた。

 ちゃんと、これは自分の意思だ。

 両親の為と、自分のために。

 
「──私は、軍隊に入る。入らなきゃ」


 これは、私自身の意思。

 自分に誓った事。

 ショウの瞳を見つめれば、彼は優しく微笑んだ。


「だったら、オレは、きみを援助する。オレにできる限り」


 そしてそのまま私の手を取って跪き、取った手の甲に口づけた。


「約束、クレア。絶対に二人で軍隊に入ろう」

「うん……!」


 これが、私の初めての望み。

 
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