もう、泣きたくない

はじまり

あれから一週間。
ハローワーク行っても、求人雑誌にチラシをみても、ピンとくる仕事は見つからなかった。

ふと、あの社長の名刺が思い浮かぶ。

「面接だけでも受けてみるか」

当時同棲していた彼氏に相談したら、いいんじゃない?の軽い返事。
私も軽い気持ちで名刺に書かれている会社の番号へ電話してみた。

面接は次の日、だった。
相当人手が足りないのかな。

会社はうちのアパートからすぐ近くだった。
こじんまりした工場。

「ふーん。ここかぁ…」

事務所へ入るなり、眼鏡の地味(以後、眼鏡)な男性がお茶を持ってきた。

えっ面接でお茶?
初めて出されたな…私、客じゃないんだけど…

困惑気味な私の前に社長と眼鏡が座り、履歴書は名前以外全く見ず、
「吉田笑子さん?」

「はい」

「いつから来られますか?」
「お休みはいつが良いですか?」
「勤務時間は何時から何時までが良いですか?」
「何か要望はありますか?」
と、眼鏡の質問責め。
しかも私に頭をペコペコさせ、まるで私の方が面接官のようだ。
なんだか笑えた。
社長は何も言わず、ジッと見てるだけ。

変わった会社…ではなく、変わった人だな…が正しい。
もちろん眼鏡のことである。

私はその場で採用となった。
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop