緑の指を持つ君と
二文字
「たった二文字で言葉になるんだよ」
くるくるとマグカップを掻き回していると、瀬波さんがそう言った。
「いぬ、とか ねこ とかですか」
「う…ん…それは名称だから」
瀬波さんが、長めの前髪の隙間から優しい目をする。
少し内にこもるきらいのある瀬波さんの前髪は、見たくない物からガードするためにか長い。髪を切りに行っても長めに残されるそれは、時折二人の間を隔てているようで気になる。
「名称でないなら、動詞ですか?立つとか来るとか行くとか」
「いや…待って。そう来るとは思ってなくて」
瀬波さんは視線を逸らして、手で口を覆う。動揺とわずかな頬の赤みが、自分が恥ずかしいことを口走ったと気づかせる。
「例えば、お互いを想う気持ちとか…」
「好き」
間にある机に身を乗り出して言っていた。瀬波さんの顔が見たくて、前髪をすくって目を見つめる。
「あたり
………もう一回言って」
「瀬波さんが、好き」
「俺も」
「それってズルい」
「あのね、実はおでこ出すの嫌い。広くておかしい」
わたしの手の上に瀬波さんの手が重なる。熱を持った瀬波さんの目が潤んでいるように感じる。
「そんなことないです。賢こそうですよ」
「気にならない?天辺からいくのか、おでこから来るのか」
「まだ大丈夫」
笑ってさらりとした髪に手を滑らせる。
「わたしが好きになったのは、中身だから大丈夫です」
剥き出しにしたままの、おでこにキスをする。
「……して」
もう一度、おでこにキスをする。掠れた声で、したたたるような色気を含んだ声だった。
二文字で言い表す言葉に、ここまでの表現が出来るのだと驚いてしまう。
そんな二文字を理解できるのは、わたしが少しでも瀬波さんに近づいているのだと思えて嬉しい。
他にもあるかもしれない言葉を、また二人で探していけるなら
それはとても幸せなことだ。