緑の指を持つ君と
とんぼ
夕暮れの空にふわりとトンボが浮かぶ。どこに向かうのか、みな羽を羽ばたかせて群を作っている。
「もう秋ですね」
「そうですね。このトンボ『赤とんぼ』のモデルになったアキアカネです。こんなに群れて飛ぶのは、この種類くらいなんですよ」
ついっと飛んだトンボが瀬名さんの隣に並んで、肩のあたりでゆらりと揺れている。
「いま空中で静止していますね。この状態をホバリングと言います。昆虫でもホバリング出来るのは、トンボしかいません。航空機でもホバリング出来るのはヘリコプターだけです。空中で静止出来るというのは、とても高度な技術がいるのですよ」
「同じ位置にいるというのは、そんなに難しいことなんですか? 」
「そうです。よく鳥と昆虫で例えられるのですが、鳥は飛ぶために羽を羽ばたかせて揚力を得るのですが、常に羽ばたかないと揚力を得ることが出来ません。勢いよく羽が空気を切ることで上向きの力を作り出しているので、低速での飛行は出来ないのです」