緑の指を持つ君と

「同じ位置にいるのってそんなに難しいのですか? 」


わたしの初歩的な質問でも瀬名さんは、嫌な顔なんてしないで聞いてくれる。わたしが質問をすると、瀬名さんは喜んでくれるから、わたしも嬉しくなる。

優しい瀬名さんは、自分の話なんてつまらないと思っていて、めったなことでは知識をひけらかしたりはしない。

だから瀬名さんの話が聞けるのは、わたしだけ。


「羽を振り下ろすことにって揚力が生じます。そのままでは上昇するのですが、トンボは二枚の羽を打ち下ろし、もう二枚でその揚力を打ち消す動きをしているといいます。ヘリコプターでも羽は二枚づつつながったものが二組あってて、それが逆に回転することによって揚力を打ち消してホバリングしているのです。尾翼にあるプロペラはバランスを取ることに使われています」

熱心に語りだす姿は、とてもキラキラしていて楽しそうで低い位置からの西日と相まって、とてもまぶしかった。

瀬名さんの顔に浮かんだ笑みが幸せそうで、こんな笑顔を作ってくれるとんぼに感謝したい。瀬名さんが、笑顔になれるならわたしは幸せだ。好きな人の笑顔が見られるのなら、世界中のとんぼを瀬名さんにプレゼントしたいくらい。

見つめていた瀬名さんが、口角をあげて愛おしいものを見るように視線を絡めてきた。



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