シャッターの向こう側。
白と黒:

序章……もしくは始まりの曇り空

*****





「おっはようございま~す」

 天気のいい朝は、元気な声でご挨拶。

 これは社会人として基本でしょう!

 今日も清々しいくらいの晴天だ。


「うるさい、神崎」


 正直……こいつさえいなければっ。

 ジロリと隣のデスクを見て目を細める。

 整理整頓されて、とても綺麗なデスクと、恐らく徹夜明けだろうに疲れてもいない顔。

 まぁ、さすがに目は赤い。

 そして恐ろしく淡々と、尚且つ辛辣に飛び出す言葉。

 そのサラッサラな髪も、吹き出物も何もない健康な肌も、全て小憎らしいわ!


 それでも、この人のデザインは人気高いのよね~。


「……おはようございます、宇津木さん」

 敢えて小声で言ってやると、鋭い視線が返って来た。


「何度も言わなくても判る」


 あ~そうですか。

 呆れ顔でそっぽを向くと、座ろうとしていた椅子を引かれる。


 おいおいおい。

 小学生かよ、君は!


 思わず振り返ると、ニヤリとした不敵な笑みと目があった。

「そういや、神崎。お前、フォトコンに応募したんだよな?」

「…………」


 ええ。

 写真家の登竜門とされる、某有名なフォトコンにね!


「それで、結果は?」

 ニヤニヤ顔を横目で見ながら、椅子を元に戻してドサリと座る。

「今年も、駄目だったか。残念だったな」

 〝も〟に力は入れないで下さい。

 全く残念そうではないその表情に、迷わず爪を立てたくなるのも人情でしょう。

「D社のキャンペーン広告、出来たんですか」

 話をそらしてみると、宇津木さんは涼しい顔で頷いた。

「どっかのヒヨッコとは違うからな」

 誰がヒヨッコだ!

 誰が!

「まぁ、写真家の神崎雪が日の目を見るのはいつになるやら?」

 鼻先で笑いながら、宇津木さんは自分のデスクのノートパソコンを開く。



 私、神崎 雪。

 高校を卒業後、単身上京。

 デザイン系の専門学校を卒業し、今年で26歳。

 そこそこ大手と言われる広告代理店に勤め、今は小さな広告のフォトグラファーをやっている。

 正直、最近は建物や食品を撮るのにも飽き飽きしてきたと言うか……
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